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AI生成作品は著作権法で保護されるか?

1 米国、日本、英国の状況

「AIにより生成された作品は著作権法で保護されるか」との難問について、米国の著作権局は、2023年3月、「基本的にAIが生成したデータ自体は著作権保護の対象外とする。ただしAIが生成した素材に人間が手を加えるケースについては、人間が手を入れた結果、作品全体として作者(人間)のオリジナル性が認められた場合に限り、AIが出力した素材以外の部分について著作権保護の対象となる。」との声明を発表した。
もっとも、米国著作権局は、2023年8月30日、著作権とAIに関する情報提供要請(Notice of Inquiry:NOI)を公表している。具体的な論点として、AIモデル学習への著作物の使用やそれに求められる透明性と情報開示のレベル、AI生成物の法的地位、実在のクリエイターのスタイルを模倣したAI生成物の適切な取り扱い等である。
日本の文化庁も、AIのモデル学習及びAI生成物の保護について、令和6年1月23日、「AI と著作権に関する考え方について(素案)」を発表して、これに関する意見募集を開始した(https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/public_comment/93997301.html)。
これに対し、英国の著作権法では、AIによって生成された作品についての保護は、米国の著作権法とはやや異なるアプローチを取っているようである。英国著作権、デザインおよび特許法(Copyright, Designs and Patents Act 1988)のセクション9(3)によると、作品がコンピュータによって生成された場合(つまり、作品が人間の著作者によって作られたものではなく、コンピュータプログラムによって自動的に生成された場合)、その作品の著作権は、その作品を生成するために使用されたコンピュータプログラムの指示を行った人に帰属し、これは、AIやその他のコンピュータプログラムが自動的に生成した作品にも適用される可能性があるといわれている。ただし、AIによって生成された作品が著作権で保護されるためには、その作品が「オリジナル」であり、作品が単なる自動生成物ではなく、人間の創造的な入力や努力の結果である必要がある。したがって、AIが生成した作品がどの程度人間の創造的な指示や介入を受けたかによって、著作権保護の対象となるかが決まるようである。

2 中国の状況・北京インターネットコートの判決の紹介

AIが生成した著作物に関して、人間が創造的な選択や意思決定を行い、そのプロセスにおいて重要な役割を果たした場合、AIはツールであり、その人間が著作者として認められる可能性について、各国で上記のとおり議論されているところである。
今回は、AI生成画像の著作物性を認めた中国の判決を紹介する。
北京インターネットコートは、2023年11月27日、AIが生成した作品を、中国著作権法で保護される美術の著作物と認める判決を言い渡した。なお、中国のインターネット裁判所は、少額訴訟について、原告も被告も法廷に行く必要はなく、ネット環境だけで訴訟を遂行し、裁判所の判決を得られるシステムとして、数年前に創設されたものである。
(1)この事件は、著作者人格権と情報ネットワークを通じた公衆送信権に関するものである。Xは、オープンソースソフトウェア「Stable Diffusion」を使用して下記の画像を生成し、タイトル「春風がもたらした優しさ」と共にソーシャルメディアプラットフォーム「小紅書(リトルレッドブック)」に投稿した。Yは、許可なくその画像を使用し、コンテンツ作成プラットフォーム「百家号」に掲載された記事で、Xの著作者としてのウォーターマークを削除した。
Xは、著作者人格権と公衆伝達権の侵害でYを訴え、百家号での公開謝罪と経済的損失5,000元の賠償を求めた。Yは、インターネットから画像を入手し、その出所を知らなかったと主張し、意図的に権利を侵害するものではなかったと反論した。
裁判所は、Xが創造的にモデル、プロンプト、パラメータを選択して画像を生成し、個人的な表現を反映していたことを確認し、画像は知的作品であり独創性を持つとして、画像が美術作品に該当すると判断した。
裁判所は、Yがウォーターマークを削除するこ

とでXの著作者人格権を侵害し、許可なく画像を公開することで公衆送信権を侵害したと判断し、Yに対し、謝罪広告と、経済的損失として500元を賠償するよう命じた。
判決は、AIが生成した画像が個人の独創的なモデル、プロンプト、パラメータ等の選択を反映している場合、作品として認識され、著作権法によって保護されるべきだと判断した。また、裁判所は、著作者が使用したAI技術やモデルを明確に示すべきであるとして、Xが「AIイラストレーション」として作品をラベル付けたことを認定した。

(2) 中国の著作権法

ア 著作物の定義と独創性
中国の著作権法3条は、著作物は文学、芸術、科学の分野における独創性を持ち、一定の形式で表現される知的成果と定義されている。
裁判所は、原告がStable Diffusionソフトウェアを使用して生成した画像が、選択されたモデル、プロンプト、パラメータによって原告の創造的な選択と個人的な表現を反映しており、画像は独創性を持つ知的作品として認められ、美術作品に該当すると判断した。
イ 著作者の権利
著作権法10条と11条によれば、著作権は著作者に属し、氏名表示権と公衆送信権等が認められる。本件では、Xは、自身の作品に対するこれらの権利を有しており、Yが許可なく画像を使用し、Xの署名を示すウォーターマークを削除したことで、これらの権利が侵害されたと認められた。
ウ AIと著作権法の適用
裁判所は、AI自体には自由意志がなく、法的な主体ではないため、AIは著作物の作者とはなり得ないものの、AIを使用して生成された画像については、人間がその創作において知的活動、選択を行った場合、その人間が作者と認められ、著作権法による保護を受けるべきだと判断した。
エ 判決では、原告がStable Diffusionソフトウェアを使用して生成した画像が、以下のような具体的な作業を通じて原告の創造的な選択と個人的な表現を反映していると認定された:
① モデルの選択:Xは、インターネット上で公開されている数万ものモデルの中から、自分の創作に適したモデルを選択した。この選択は、作品の芸術的カテゴリーやスタイルに影響を与えるため、原告の美的趣味や創作意図を反映している。
② プロンプトの入力:Xは、画像生成に必要なプロンプト(指示語)を入力し、これにより、作品の主題、環境、構図、スタイルなどを定義し、原告が望む画像の特徴を指定し、具体的なアートスタイル、被写体の詳細、環境設定、構図、スタイルに関するプロンプトを選択して、創造的な意図を表現した。
③ パラメータの設定:Xは、画像生成のためのパラメータ(例えば、画像の解像度やアスペクト比など)を設定し、これにより、生成される画像の品質や特徴に影響を与えた。
④ 生成プロセスの調整:Xは、初期の生成結果に基づいてプロンプトを追加したり、パラメータを調整したりすることで、画像を微調整し、これによりXが最終的に満足する画像が選択された。

裁判所は、これらの創造的な選択と個人的な表現が、原告の知的労働の結果であり、画像に独創性を与える要素であると判断した。
中国の著作権法の該当条文は、上記のとおり、日本の著作権法とほぼ同じ内容となっている。本件のようなケースでは、今後も、Xが選択した画像とAIにより生成された画像とが、どのように異なるものであるか、Xのプロンプトの指示内容がどの程度具体的で創作的なものであるか否か等が問題となるであろう。

3 英国最高裁の特許の発明者についての判決

英国最高裁は、2023年12月20日、発明者をAIとする特許出願について、AIは自然人ではないから、AIを発明者とすることはできないとする判決を言い渡した。この判決は、英国の1,2審の判断を是認したものであり、米国でも同様の判断がなされているところである。
しかし、この判決も、AIを発明者とすることはできないと判断しただけであり、判決の読み方によっては、AIにプロンプトを入力しパラメータを調整して、発明をさせている人間を発明者として出願すれば、結果は異なるものとなる可能性を推測させるものである。

4 おわりに

AI生成発明、AI生成著作物といわれるものも、AIを道具として操作する人間の創作的なプロンプト、パラメータの設定により、発明や著作物となる時代が、既にそこまで来ているようである。
特に画像の場合は、AIが出力した部分(素材を除いた部分)についてのみ、著作権保護の対象となると切り分けることはなかなか困難であろう。
日本の文化庁の前記パブコメ資料の35頁では、「AI 生成物の著作物性は、個々のAI 生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。」と記載したうえで、著作物性を判断するに当たっては、AI 生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示(プロンプト)は、創作的寄与があると評価される可能性を高めること、生成物を確認し、指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられること、単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないが、創作的行為の要素として選択行為があるものもあることなどが指摘されている。
以上によれば、AI生成物については、AIを道具として使用する人間の詳細な指示(プロンプト)があり、、それが創作的行為と評価される事例については、著作物性が認められる場合もある、ということができるであろう。