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令和5年著作権法改正と訴訟・無効審判等のデジタル化

1.令和5年著作権法改正の趣旨

令和5年改正著作権法が、昨年5月に成立・公布された。今回の改正点は、1.新たな裁定制度の創設、2.立法・行政における著作物の公衆送信を可能とする規定の整備、3.損害賠償額推定規定の見直しという3点である。

文化庁HPに掲載されている解説資料[i]によると、1点目の新たな裁定制度についての改定の趣旨としては、「デジタル化の進展により、誰もがコンテンツを創作・公表し、発信、利用することが容易になった。これまで主流であった出版社やテレビ局を経由するような「プロ」のコンテンツとは異なり、インタ―ネット上にはアマチュアを含む一般の方が創作したコンテンツが増加し、利用される機会も増えている」現状を踏まえて、「著作権者等の許諾を得て利用するという著作権法の原則は維持しつつ、許諾を得て利用することが困難とされる、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合について、著作物等の利用とその対価還元を円滑化する仕組みを整備」することである。また、2点目に関しては、裁判手続、立法及び行政手続についての権利制限を定めていた改正前42条について、「許諾なく可能となる利用行為が複製に限られていたことから、部局内において著作物等をクラウド保存や複数の職員宛のメール送信に添付をしたり、公衆送信されたものをモニターに映したりすることができず、デジタル化・ネットワーク化に対応した取組が立法等の公的機関で推進されている中、公的機関で必要とされている著作物利用に十分対応できていないという指摘があった。」と言及されている。3点目についても、令和元年の特許法改正と同様の改正内容ではあるものの、「新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、海賊版サイトへのアクセスが急速に拡大した」ことを立法事実として挙げており、いずれの改正点も、著作物の利用の場がネットワーク上に急速に広がり、移り続ける情勢に別の側面から対応しようとするものであるといえる。

以下では、上記3点のうち立法・行政における著作物の利用に係る権利制限規定の改正内容のうち、訴訟及び無効審判等の手続きに関するものを紹介する。

2.立法・行政における公衆送信について

上述したとおり、立法・行政手続における著作物の利用に関しては、従来「複製」、複製物の「譲渡等」についての権利制限規定が著作権法42条に置かれていた。この条文の見出しは裁判手続等による複製というものだったが、実際には立法又は行政の目的のための内部資料と行政審判等の手続を読み込み、42条のみで3つの類型すべてをカバーしていた。今回の改正で、41条の2が新設され、1項に裁判手続と行政審判手続のために必要な著作物の複製について、2項に特許法等に基づく行政審判のデジタル化に伴う公衆送信についての権利制限規定が置かれることになった。

著作権法第41条の2

著作物は、裁判手続及び行政審判手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。(ただし書省略)

2 著作物は、特許法…その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であつて、電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行うもののために必要と認められる限度において、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。…)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。(ただし書省略)

訴訟手続については2項に明記されていないが、民事訴訟手続においては、既にmints(民事裁判書類電子提出システム)の運用が令和4年から始まっており、それに先立ち、令和4年5月に成立・公布された民事訴訟法等の一部を改正する法律によって公衆送信等が可能となっていた。令和5年に成立した民事執行手続、倒産手続、家事事件手続等の民事関係手続のデジタル化を図るための規定の整備等を行う改正法には、民事訴訟以外のこれらの民事事件についてのデジタル化を見据えて、著作権法第41条の2の2項の「著作物は、」の後に「民事訴訟法(平成八年法律第百九号)その他政令で定める法律の規定による裁判手続及び」という文言を加えることが定められており、この規定によって、著作権法第41条の2の2項に基づいて民事訴訟に必要な公衆送信を行うことができるほか、民事執行手続等についても電子書面の提出が可能となった場合には、やはり必要な公衆送信を行うことができるようになる。

3.手続のデジタル化の進行について

令和6年1月より、これまで電子申請ができなかった特許庁に対する無効審判請求書や異議申立書等の提出を、インターネット出願ソフトを介して行うことができるようになった。

また、民事訴訟においても、現時点では訴状や控訴状、閲覧制限申立書等についてはmintsから提出することができず、紙媒体で提出する必要があるが、令和8年5月までに一律にインターネットでの提出が可能となり、事件記録が電子化されることによって、当事者はオンラインで記録の閲覧やダウンロードをすることができるようになる。(民事訴訟以外の手続きについては、令和10年5月までとされている。)さらに令和6年3月1日からは、弁論準備手続に限らず、これまでは法廷で出頭の上行う必要があった口頭弁論についてもTeams等のウェブ会議で行うことができるようになり、令和8年5月までには民事訴訟以外の手続にも段階的に拡大することが予定されている。

特に知的財産分野の事件については、現時点でもmintsやウェブ会議による弁論準備手続が広く利用されているので、すべての記録が電子データで完結し、期日もほとんどウェブ会議で行うという状況は比較的早くやってくるものと予想される。

 

[i]https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r05_hokaisei/pdf/93999801_01.pdf

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