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インターネット上での著作権侵害の裁判管轄

インターネット上での著作権侵害の裁判管轄

 

2024年1月11日

弁護士 尾関孝彰

 

1 インターネット上で著作権侵害がなされた場合における裁判管轄の問題

インターネット上のウェブサイトに他人の著作物を無許可でアップロード(送信可能化)すると、世界中のあらゆるクライアント端末に当該著作物のデータが送信され、受信国での著作権侵害が成立する可能性がある。そのため、このようなインターネット上での著作権侵害行為は、複数の国での著作権侵害訴訟に服することになる可能性がある。

本稿では、日本の裁判所と米国の裁判所の管轄権に着目する。

 

2  日本の裁判所の管轄権

(1)著作権に基づく差止請求

(ア)外国著作権に基づく差止請求の対象

日本における外国特許権に基づく差止の可否について、最高裁平成14年9月26日判決(カードリーダー事件)は、「我が国は,特許権について前記属地主義の原則を採用しており,これによれば,各国の特許権は当該国の領域内においてのみ効力を有するにもかかわらず,本件米国特許権に基づき我が国における行為の差止め等を認めることは,本件米国特許権の効力をその領域外である我が国に及ぼすのと実質的に同一の結果を生ずることになって,我が国の採る属地主義の原則に反する」と判断した。この論理は、特許権と同様に属地主義の原則が妥当する著作権にも適用される。したがって、カードリーダー事件最高裁判決の考えによると、外国著作権はその国の行為のみを規制するものであり、外国著作権に基づき日本国内での行為を差し止めることはできない。

 

(イ)日本著作権に基づく差止請求の対象

属地主義の原則によると、日本の著作権は日本国内のみで効力を有し、日本の著作権法は外国で実行される著作権侵害相当行為(日本で行われたならば日本の著作権を侵害する行為)に域外適用されない。このことは、著作権法113条1項1号のみなし著作権規定が、外国で実行される複製権侵害相当行為(「国内で作成したとしたならば著作権・・・の侵害となるとなるべき行為」)に日本の著作権法が域外適用されないことを前提としていることに表れている。

したがって、日本著作権に基づく差止請求の対象は、日本国内で実行される侵害行為(著作権法23条1項並びに2条1項7の2、同9の4及び同9の5で規定される送信可能化権を侵害する行為)のみを対象とする。

 

(ウ)インターネット上のウェブサイトにアップロード(送信可能化)する行為の実行地の評価

そうすると、インターネット上のウェブサイトに他人の著作物をアップロード(送信可能化)する行為が日本国内で実行される送信可能化と評価されることが、日本著作権に基づく差止請求の前提条件になる。送信可能化実行地として評価し得る場所としては、①他人の著作物のデータ送信を要求できるクライアント端末が所在する場所(すなわち世界中のあらゆる場所)、②Webサーバが所在する場所、及び③他人の著作物をアップロードする操作が実行された場所が考えられる。

著作権法113条2項(リーチサイト/リーチアプリを用いてリンクを提供する行為による海賊版著作物利用の幇助を著作権侵害とみなす規定)が国外で行われる送信可能化であって日本の著作権を侵害しないもの(「国外で行われる送信可能化であつて国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきもの」)があることを前提にしていることから、常に日本が送信可能化の場所に含まれるとの見解(上記①の見解)をとることはできない。

ホスティングサービスが浸透している現代では、Webサーバがどこの国に所在するのかは、通常、送信可能化実行者が意識していない偶発的事由である。したがって、上記②の見解も妥当ではない。

また、送信可能化に用いられるコンピュータ端末の多くがモバイルPCである現代では、どの国でアップロード操作が実行されるのかも偶発的事由である。アップロード操作者が航空機に搭乗している際に公海上でアップロード操作が実行される可能性もある。そのため、アップロード操作が実行された場所を送信可能化の場所と評価すること(上記③の見解)も妥当ではない。

著作権者の経済的利益を保護するという観点では、公衆送信により著作物の需要が奪われている地域が送信可能化を含む公衆送信の実行行為地と認定されるべきである。他方、ウェブサイト運営者に予期できない国での応訴の負担を強いるのを避けるべきであるという観点もある。そこで、筆者は、問題となるウェブサイトで意図されている公衆送信の主たる需要者を認定し、当該需要者が所在する場所を送信可能化の実行行為地と評価するのが妥当であると考える。公衆送信の主たる需要者を認定する考慮要素としては、コンテンツの言語、コンテンツの内容と訴訟提起地との関係性、訴訟提起地に居住する者の興味、コンテンツについての宣伝広告活動、実際のデータ送信先の地理的分布、送信可能化実行者が訴訟提起地から得た収益、及びジオブロッキング(特定の地域からのアクセスを排除する技術的措置)が考えられる。筆者は、これらの考慮要素に基づき認定された公衆送信の主たる需要者が所在する場所が日本を含む場合にのみ、日本著作権(送信可能化権)の侵害が成立すると考える。

 

(エ)民事訴訟法3条の3第8号の適用の有無

民事訴訟法3条の3第8号は、不法行為に関する訴えについては、不法行為地(加害行為地に加えて結果発生地も含む)が日本国内であるときに日本の裁判所が管轄権を有すると定める。この規定が、不法行為に基づく損害賠償請求としての著作権に基づく損害賠償請求に適用されることには疑いの余地がないが、著作権に基づく差止請求に適用されるかには争いがある。

カードリーダー事件最高裁判決は、特許権に基づく差止請求は、不法行為に基づく請求ではなく、特許権の独占的排他的効力に基づく請求であると述べた。

他方、最高裁平成16年4月8日決定(パイオニア貿易事件)は、不正競争防止法3条1項の差止請求は不法行為に関する訴えに該当すると判断した。

著作権に基づく差止請求は、特許権に基づく差止請求と同じく、知的財産権の独占的排他的効力を実現するために知的財産権法により特別に付与された救済手段の請求であり、公正な競争の確保を目的とする不正競争防止法3条1項の差止請求とは性質が異なるから、パイオニア貿易事件最高裁決定ではなくカードリーダー事件最高裁判決に従い、不法行為に関する訴えには該当しない、したがって民事訴訟法3条の3第8号は適用されないとの見解があり得る。他方、パイオニア貿易事件最高裁決定は、カードリーダー事件最高裁判決を修正したものであり、著作権に基づく差止請求は、パイオニア貿易事件最高裁決定に従い、不法行為に関する訴えに該当するとの見解もあり得る。この点につき、知財高裁平成22年9月15日判決(日本電産事件)は、特許権に基づく差止請求について、後者の見解を採用した。現時点ではこの争点は決着していない。しかしながら、いずれの見解によっても、結局は、日本国内で日本の著作権(送信可能化権)を侵害する行為がなされたか否かの評価に帰着する。最高裁平成13年6月8日判決(ウルトラマン事件/円谷プロ事件)は、被告が非居住者である場合、平成23年民事訴訟法改正により3条の3が導入される前の5条9号による日本の裁判所の管轄権は、日本国内での不法行為の存在(「被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係」)が前提条件である旨述べた。そうすると、著作権侵害に基づく差止請求に民事訴訟法3条の3第8号が適用されるとの見解によっても、日本国内で不法行為である著作権侵害行為が行われることが、日本の裁判所が管轄権を有するための前提条件になる。他方、著作権に基づく差止請求は、不法行為に基づく請求ではなく、著作権の独占的排他的効力に基づく請求であるとの見解に立っても、日本の著作権(送信可能化権)を侵害する行為が日本国内で行われること、すなわちインターネット上のウェブサイトにアップロード(送信可能化)する行為の実行地が日本国内と評価されることが、日本の裁判所における差止請求の必要十分条件であると考えられる。

 

(オ)外国著作権に基づく当該外国での侵害行為に対する差止請求についての日本の裁判所の管轄権

特許権については、被告が日本法人であり、かつ日本の裁判所による審理が非合理でない場合には、外国特許権に基づく当該外国での侵害行為に対する差止請求についての日本の裁判所の管轄権が認められる余地がある(東京地裁平成15年10月16日判決(サンゴ砂事件))。しかしながら、著作権については、一般的に、外国著作権の侵害を構成する著作物の言語は外国語であることから、日本の裁判所が審理するのは不合理と考えられる。また、筆者は、外国知的財産権に基づく当該外国での侵害行為は最終的には当該外国での侵害訴訟で解決されるものであり、日本の裁判所におけるこのような侵害行為に対する差止・損害賠償請求訴訟は、紛争を最終的に解決させることができないことから、訴えの利益がないと考える。

 

(2)著作権に基づく損害賠償請求

(ア)外国著作権に基づく損害賠償請求

不法行為に基づく損害賠償請求としての著作権に基づく損害賠償請求については、民事訴訟法3条の3第8号が適用され、不法行為地(加害行為地に加えて結果発生地も含む)が日本国内であるときに日本の裁判所が管轄権を有することには疑いがない。理論的には、インターネット上のウェブサイトに他人の著作物のデータをアップロードする行為を外国著作権の侵害と認定した上、当該データを受信したクライアント端末の所在国である日本を外国著作権侵害の結果発生地と認定することにより、民事訴訟法3条の3第8号による日本の裁判所の管轄権を認めることが考えられる。しかしながら、上記のとおり、通常は、外国著作権の侵害の有無は当該国の裁判所により判断されるのが合理的である。そのため、結果発生地を厳格に認定することにより、又は民事訴訟法3条の3第8号括弧書き(「外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないもの」)の柔軟な適用により、日本の裁判所の管轄権が否定されることになると考えられる。

 

(イ)日本著作権に基づく損害賠償請求

属地主義の原則の下で日本の著作権について不法行為が成立するためには、日本国内で著作権(送信可能化権)を侵害する行為が行われることが要件になる。上記(2(1)(ウ))の筆者の考えによれば、公衆送信の主たる需要者が所在する場所が日本である場合にのみ、日本の裁判所が日本の著作権の侵害に基づく損害賠償請求の管轄権を有することになる。

 

3  米国の裁判所の管轄権

インターネット上のウェブサイトにアップロードされた他人の著作物のデータが米国に所在するクライアント端末に送信された事案において米国の裁判所に著作権侵害訴訟が提起された場合、裁判所が人的管轄(personal jurisdiction)を有するのか否かが問題となる。裁判所が人的管轄(personal jurisdiction)を有するためには、被告が当該法廷地(forum)と最低限の関連性(minimum contacts)を有することが要求される。最低限の関連性(minimum contacts)の有無は、遠隔管轄地で応訴しなければならない不当な負担から被告を保護するという観点と他州/他国の主権を侵害してはならないという観点で判断される。被告が非居住者である場合には、被告が、問題となるコンテンツ(他人の著作物)を当該法廷地(forum)に向ける意図的行為をしたことが要求されると考えられている。

この点に関し、第9巡回区控訴裁判所 (United States Court of Appeals for the Ninth Circuit)は、Lang Van, Inc. v. VNG Corporation事件(ベトナム企業である被告が、音楽ストリーミングサイトを運営し、Apple App StoreとGoogle Play storeでスマートフォン向け音楽アプリを配信していた事案)において、2022年7月21日に、米国の裁判所が人的管轄(personal jurisdiction)を有するためには、①被告が意図的に米国でビジネスをする利益を享受していたことを示す米国との意図的活動又は取引があること、②訴訟の請求は米国に関連する活動に基因すること、③当該裁判所が管轄を有することがフェアプレイと正義に適合すること、及び④当該法廷地(forum)との関連性(contacts)を形成する被告の意図的行為があったことが要求される、特に、著作権侵害訴訟においては、被告が当該法廷地(forum)に向けた意図的行為を行い、かつ被告が当該法廷地(forum)で発生するであろうことを認識していた害を実現させたことが要求されると述べた。

米国の裁判所も、これらの要件の充足の有無を判断するに当たっては、上記の考慮要素(コンテンツの言語、コンテンツの内容と訴訟提起地との関係性、訴訟提起地に居住する者の興味、コンテンツについての宣伝広告活動、実際のデータ送信先の地理的分布、送信可能化実行者が訴訟提起地から得た収益、及びジオブロッキング(特定の地域からのアクセスを排除する技術的措置))を検討すると考えられる。さらに、「③当該裁判所が管轄を有することがフェアプレイと正義に適合すること」の要件については、証人の所在地及び証拠の言語も考慮されると考えられる。

以上