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特許無効審判における口頭審理について

特許無効審判の審理方式は口頭審理が原則とされています(特許法145条1項)。そして、特許無効審判の口頭審理の意義は、審判長が審尋し争点を整理することにより、当事者の適切な主張立証を実現することにあるとされています(審判便覧33-00)。

特許無効審判の当事者になる場合には、口頭審理がどのように行われるかをよく理解しておくことが重要ですので、以下にご紹介します。

1 口頭審理の準備

審判請求人から審判請求書が提出され、被請求人から答弁書及び必要に応じて訂正請求書が提出された後、口頭審理が行われます(審判便覧51-13)。

口頭審理に先立ち、合議体は審理事項通知書を当事者に送付し、当事者は口頭審理前の指定された期限までに陳述要領書を提出します。

審理事項通知書には、本件発明、引用発明、両者の一致点・相違点等の事実認定に関する合議体の暫定的な見解が記載される他、当事者が争点としている事項や合議体が審決をする上で論点となる事項が具体的に指摘されて当事者の主張立証が促され、また、主張書面において明瞭でない点が指摘されてその釈明が求められます(審判便覧33-08)。

当事者は、陳述要領書において、審理事項通知書に示された合議体の暫定的見解についての意見を述べ、合議体から指摘があった点について主張立証を尽くします。特に、審理事項通知書において自己に不利な見解が示された場合には、その見解を覆すための主張立証をしておく必要があります。自己に有利な見解が示された場合であっても、その見解を補強する主張立証をしておくことが有効な場合もあります。

また、口頭審理は直接口頭で主張できる貴重な機会ですので、口頭審理期日に強調しておくべき主張や、相手方の陳述要領書に対する反論についても、事前に検討しておきます。

2 口頭審理期日

審判長は、請求の趣旨、答弁の趣旨、無効理由及び証拠の確認等を行い、双方の主張、争点を整理していきます。陳述要領書等に記載された内容に不明瞭な点があれば、審判長は当事者に釈明を求め、その釈明に対し相手方にも意見を求めます。

特許無効審判では、民事訴訟における口頭弁論とは異なり、特許庁に提出された書面は、口頭審理の期日に改めて陳述を行わなくても全て有効に陳述したものとなります(審判便覧33-00)ので、提出した書面に記載した内容を繰り返して主張する必要はありません。しかし、審判長からの審尋後に当事者双方に対して主張の機会が与えられることも多いので、その際には、すでに提出した書面に記載した主張であっても、特に重要な点について口頭で強調しておくのは効果的だと思われます。

休廷を挟んで、調書に記載する事項の確認が行われます。閉廷前に、審判長は、原則として、審理を終結する旨又は審決をするのに熟した旨を口頭で通知し、その旨調書に記載することとされています(審判便覧33-05)が、当事者に書面を提出させる必要がある場合には、以後書面審理とする旨が通知されることもあります。

「審決をするのに熟した」旨が通知された後の進行としては次の二通りがあります。審判長は、審判請求に理由があると認めるときは審決の予告を行い(特許法164条の2第1項)、審決の予告をしないとき(審判請求に理由がないとき)は審理終結通知(特許法156条2項)の後に請求不成立審決をします。

3 オンラインによる口頭審理について

新型コロナウイルス感染症拡大に対応したデジタル化等の手続の整備の一環として、令和3年の特許法改正により、特許法145条に6項及び7項が新設され、令和3年10月1日以降の口頭審理はオンラインで行うことが可能になりました。


特許法145条

6 審判長は、当事者若しくは参加人の申立てにより又は職権で、経済産業省令で定めるところにより、審判官及び審判書記官並びに当事者及び参加人が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、第三項の期日における手続を行うことができる。

7 第三項の期日に出頭しないで前項の手続に関与した当事者及び参加人は、その期日に出頭したものとみなす。


令和3年2月に産業構造審議会特許制度小委員会でまとめられた「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方」では、「インターネットを通じた公開(傍聴)については、それを積極的に認める意見と導入に慎重な意見の双方からの意見が出されたことを踏まえ、引き続きユーザーの意見等を聴取して慎重に検討することが適当である。」とされていました。

特許庁が公開した「オンライン口頭審理に関するQ&A 令和3年10月1日版」によると、傍聴は、口頭審理が行われる審判廷でのみ可能でオンラインによる傍聴はできないとする一方で、審判長が認めた場合に、全ての当事者及び参加人の同意を条件として、当事者等の関係者(当事者等の従業者等)に限定してオンライン配信を実施するとしており、当事者の関係者については一定の配慮がされています。

 

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