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パリ条約に基づく部分優先~ブルニアンリンク作成デバイス事件知財高裁判決(令和2年11月5日判決)

1.工業所有権の保護に関するパリ条約4条Fに基づく部分優先

バリ条約4条Fは、特許出願に優先権主張の基礎となる出願(基礎出願)に含まれていなかった構成(新規追加構成)が記載されていても、新規追加構成以外の部分については優先権が維持されることを規定しています。パリ条約は、国内法に優先して適用されます。

そのため、バリ条約4条Fから、①一部の請求項が新規追加構成であっても他の請求項の優先権は否定されないこと、②一つの請求項の中で複数の選択肢が記載されている場合、一部の選択肢が新規追加構成であっても他の選択肢の優先権は否定されないこと、及び③基礎出願に含まれていなかった実施形態を追加したことのみを理由としては優先権が否定されないことが導かれます。

 

【パリ条約4条Fの公式英語翻訳文】

 “No country of the Union may refuse a priority or a patent application on the ground that the applicant claims multiple priorities, even if they originate in different countries, or on the ground that an application claiming one or more priorities contains one or more elements that were not included in the application or applications whose priority is claimed, provided that, in both cases, there is unity of invention within the meaning of the law of the country.

With respect to the elements not included in the application or applications whose priority is claimed, the filing of the subsequent application shall give rise to a right of priority under ordinary conditions.”

 

【パリ条約4条Fの日本語訳】

「いずれの同盟国も,特許出願人が2以上の優先権(2以上の国においてされた出願に基づくものを含む。)を主張することを理由として,又は優先権を主張して行つた特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分を含むことを理由として,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができない。ただし,当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限る。

優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分については,通常の条件に従い,後の出願が優先権を生じさせる。」

 

 

2.ブルニアンリンク作成デバイス事件知財高裁判決(令和2年11月5日判決)

下記の出願経過に係る本件特許C(特許第5575340号)の無効審判に対する審決取消訴訟(ブルニアンリンク作成デバイス事件)において、令和2年11月5日知財高裁判決は、ある請求項で特定される発明が基礎出願(米国仮出願A)に含まれていた構成と新規追加構成とを結合したものあっても、パリ条約の部分優先の法理が妥当することを判示しました。

 

【本件特許Cの出願経緯】

2010年11月5日              優先権主張の基礎となる米国仮出願A

2011年3月29日              ブルニアンリンク作成方法を解説する動画(甲1動画)が公開された。

2011年6月23日              米国仮出願Aを基礎出願としてPCT出願Bがなされた。

2014年1月29日              PCT出願Bを分割して本件出願Cがなされた。

2014年7月11日              本件出願Cに基づき本件特許Cが登録された。

 

具体的には、当該知財高裁判決は、次のとおり認定・判断しました。

 

  • 本件発明Cは、米国仮出願Aに含まれていた1まとまりの完成した発明を含む。
  • 本件発明Cは、上記の基礎出願発明と米国仮出願Aに含まれていなかった新規追加構成[1]、[2]及び[4]とが結合したものである(無効審判請求人が新規追加構成と主張した構成[3]は米国仮出願Aに含まれる。)。
  • 「パリ条約4条Fによれば,パリ優先権を主張して行った特許出願が優先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由として,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすることはできず,ただ,基礎となる出願に含まれていなかった構成部分についてパリ優先権が否定されるのにとどまるのであるから,当該特許出願に係る特許を無効とするためには,単に,その特許が,パリ優先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことが認められるだけでは足りず,当該構成部分が,引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必要があるというべきである。」
  • 新規追加構成は,それぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであるから,引用発明に対する新規性,進歩性は,それぞれの構成について,別個に問題とする必要がある。
  • 新規追加構成[1]、[2]及び[4]はいずれも引用発明である甲1動画に対して新規性・進歩性を有するから、優先権の有無を判断する上で、これらの構成が米国仮出願Aに含まれているか否かを検討する必要はない。

 

上記の認定・判断をまとめると、一つの請求項で特定される発明が優先権主張の基礎となる出願に含まれていた構成と新規追加構成とを結合したものあっても、(i)優先権主張の基礎となる出願に含まれていた構成が発明として完成しており、かつ(ii)新規追加構成が本件出願前に開示された引用発明に対して進歩性を有するものである場合は、優先権は当該請求項に係る発明に及ぶということになります。

ブルニアンリンク作成デバイス事件知財高裁判決は、一つの請求項で特定される発明が優先権主張の基礎となる出願に含まれていた構成と新規追加構成とを結合したものあってもパリ条約の部分優先の法理が妥当し得ることを判示した点で画期的な判決です。ただし、この判決で示された部分優先が認められるための要件が充足される状況では、優先権の効力がなくとも優先期間中に公開された引用発明に対する進歩性があるはずです。

 

2022年3月1日

 

弁護士 尾関孝彰

以上

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