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著作物の独占的利用権に基づく損害賠償請求が認められなかった事例

※本稿は、以前リニューアル前の弊所のウェブページに掲載していたものを、加筆修正したものである。

1 事案の概要

原告が、被告において「チェブラーシカ」等の劇場用アニメ映画で描写された登場人物としてのキャラクターを利用したぬいぐるみ、トートバッグ等多数の商品を販売する行為が、原告の上記キャラクターに係る著作物に係る独占的利用権を侵害すると主張して、被告に対して、民法709条、著作権法114条3項に基づき損害賠償請求をした事案である。

原告は、訴外ロシア法人Aから、2016年9月1日から2021年8月31日までを期間として本件キャラクターを日本を含むアジア全域で使用するための独占的利用権を付与されたと主張し、被告に対して当該独占的利用権に基づいて損害賠償請求を行った。

他方、被告は、有限責任事業組合であり、遅くとも2016年10月12日以降、本件キャラクターの商品を多数販売していた。

なお、被告側の事情としては、原告の契約締結前の2005年に、ロシア法人Aと当時の被告組合員との間で、2014年までを期間として本件キャラクターを旧ソ連諸国を除く世界の全ての国と地域において商品化等する権利を独占的に利用する権利の許諾契約を締結していた(以下、「被告契約」という。)。被告契約は、更新料を支払うことによって許諾期間を10年延長できるとする契約となっていた。

2 争点

争点は、そもそもロシア法人Aに,本件キャラクターに係る商品化権が帰属しているか否か(争点1-1)や、原告がロシア法人Aとの契約により付与されたと主張する独占的利用権に基づく,原告の被告に対する損害賠償請求の成否(争点1-2)、被告が被告契約を承継したか(争点2-1)、被告契約の更新の有無(争点2-2)等多岐にわたるが、裁判所は、争点1-2について判示し、原告の請求を棄却した。

3 判決[1]

「本件において、原告は,本件キャラクターに係る商品化権に係る権利又は法律上保護される利益として,独占的利用権を有する旨主張する。しかして,独占的利用権者は,商品化権の権利者に対し,契約上の地位に基づく債権的請求権を有するにすぎないが,このような地位にあることを通じて本件キャラクターに係る商品化権を独占的に使用し,これを使用した商品の市場における販売利益を独占的に享受し得る地位にあることに鑑みると,独占的利用権者がこの事実状態に基づいて享受する利益についても,一定の法的保護が与えられるべきである。そうすると,独占的利用権者が,契約外の第三者に対し,損害賠償請求をすることができるためには,現に商品化権の権利者から唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売しているか,そうでないとしても,商品化権の権利者において,利用権者の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為を行うことによりこれに準じる客観的状況を創出しているなど,当該利用権者が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在するといえることが必要というべきである。」

「そもそも原告は,本件原告ライセンス契約に基づいて,本件キャラクターを付すなどにより本件キャラクターを利用した商品を日本において独占的に販売するなど,自ら当該商品化権を専有しているという事実状態を生じさせているものではない上,本件原告ライセンス契約に至る状況等をみても,被告が本件…契約等を通じ日本における当該キャラクター商品の販売を継続していたという状態であるのに,権利者とされるロシア法人Aにおいて,本件原告ライセンス契約により原告の利用権の専有を確保したと評価される行為がされたとはいえず…,かえって,ロシア法人Aは,上記契約の更新期前の時期には,被告との間で被告への利用権設定に向けての交渉や被告映画の販売交渉等に係る合意を行い,また,訴外香港法人に対し本件キャラクターの利用権を付与するなどの状態となっていたものである。

そうすると,このような本件事案における事実状態をもってしては,権利者とされるロシア法人Aによって,利用権者たる原告の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為が行われたとはいえず,ロシア法人Aによって,原告が,現にロシア法人Aから唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売している状況に準じるような客観的状況が創出されているなど,原告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在しているということはできないというべきである。

したがって,原告は,被告に対し,独占的利用権が侵害されたとして損害賠償請求をすることはできないというほかない。」

4 コメント

本判決では、キャラクターに係る商品化権に係る独占的利用権について、その利益も一定の法的保護が与えられるべきであるとしたうえで、独占的利用権者が契約外の第三者に対して損害賠償請求をすることができるための要件を示した判決として意義がある(「3 判決」の強調部分参照。)。着目すべき点として、商品化権の権利者のふるまい(本件では、ロシア法人Aは、利用権について原告と被告の両者に利用権を与えているようなふるまいを見せていたと認定された)によって独占的利用者が契約外の第三者に対して損害賠償請求ができるかどうか変わり得ることを示している。

[1] 東京地判令和2年6月25日(平成30年(ワ)18151)

以上

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。

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