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特許の分割出願について(1)

近年の分割出願の推移を見てみると、分割出願件数及び分割出願割合が増加傾向にあり、分割出願が積極的に活用されていることがわかります。

以下に、分割出願を活用する前提となる分割出願の基本的な事項についてまとめました。

 

1 分割の時期的要件

分割の時期的要件は特許法44条1項に記載されており、以下のとおりです。

1 明細書等の補正をすることができる時又は期間内(特17条の2第1項)

①出願から特許査定の謄本送達前まで (最初の拒絶理由通知を受けた後は②~⑤の場合に限る)

②最初の拒絶理由通知の指定期間内

③拒絶理由通知を受けた後の第48条の7の規定による通知(文献公知発明の記載不備)の指定期間内

④最後の拒絶理由通知の指定期間内

⑤拒絶査定不服審判の請求と同時

2 特許査定(前置審査での特許査定、審判で拒絶査定が取り消されて審査に差し戻された後の特許査定は除く)の謄本送達日から30日以内。

3 拒絶査定の謄本送達日から3月以内。

上記の各時期において、どのような分割出願をするのか否かを検討することになります。

特許庁は、2023年4月から、原出願が拒絶査定不服審判係属中である分割出願であって申請がされたものについて、原出願の前置審査又は審判の結果が判明するまで審査を中止するという運用を開始しました。また、2024年4月からは、この中止期間中の申請により審査の再開をすることもできるようになりました。

原出願が審判係属中の分割出願に対する審査中止の運用について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

原出願の審査結果を踏まえて、分割出願の効率的・効果的な戦略を検討することが可能となります。

 

2 分割の実体的要件

特許庁の審査基準では、適法な分割出願であるためには以下の3つの要件をみたすことが必要であるとされています。

(要件 1) 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと。

(要件 2) 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。

(要件 3) 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。

審査基準において、要件1は通常満たされるとされており、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は、(要件 2)が満たされれば、(要件 3)も満たされることとするとされていることから、(要件 2)が特に重要と考えられます。

そして、(要件2)は、以下の判断基準で判断されます。

分割出願の明細書等が「原出願の出願当初の明細書等」に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、その補正が「原出願の出願当初の明細書等」との関係において、新規事項を追加する補正であるか否かで判断する。

 

3 分割の効果

分割要件を満たす場合は、分割出願は、原出願の時にしたものとみなされます。

分割の実体的要件を満たさない場合は、分割出願は、現実の出願時(分割出願時)にしたものとなりますので、この場合には、原出願の後であっても分割出願の前に頒布された文献であれば、分割出願の新規性、進歩性を否定し得る文献になります。

 

4 分割出願の活用と留意点

出願人・特許権者が、分割出願を活用する背景として、以下のような事情が考えられます。

・原出願では、拒絶理由で指摘された引用例からの回避やサポート要件違反等の解消のため、減縮して確実な権利化を目指すが、将来の被疑侵害品に備え、分割出願をしておきたい。

・分割出願では、被疑侵害品を含むよう、原出願の特許発明より広い範囲(構成要件の削除等)又は原出願の特許発明とは異なる構成(構成要件の置換)で特許を取得したい。

一方、分割出願の発明を、原出願発明よりも広い発明あるいは原出願発明とは異なる発明にしたいという場合には、以下のような問題が生じることがあります。

・分割出願の補正や訂正が、分割出願の明細書(原出願の明細書とほぼ同じ記載であることが多い)に記載されていない(新規事項)と判断されることがある。

・分割出願の請求項に係る発明が原出願の請求項に係る発明と実質同一であると判断されることがあり、その場合、原出願発明を除くクレームすると、分割出願の請求項が実施例にサポートされていない発明だけになってしまうことがある。

・分割出願の請求項に係る発明は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲を超えており、分割要件を満たさないと判断されることがある。

 

→ 特許の分割出願について(2)に続く