【設樂】アムジェンPCSK9特許を巡る 2023年米国最高裁判決と 知財高裁判決について
(2023年8月発行「季刊創英ヴォイスvol.97」に寄稿)
1 先端の医薬品特許に関するサポート要件と実施可能要件
先端の医薬品特許に関するサポート要件と実施可能要件並びに機能的クレームのクレーム解釈の問題は、実務上、悩ましい問題である。
アムジェンが、PCSK9に対する抗原結合たんぱく質特許(特許番号5705288号、5906333号)に基づき、サノフィに対し、同社製造のモノクローナル抗体とその医薬品の差止を求めた特許権侵害訴訟について、東京地裁判決(平成31年1月17日)及び知財高裁判決(令和元年10月30日、以下「控訴審判決」という。)は、被告製品の侵害を認め、サポート要件違反、実施可能要件違反、進歩性欠如の無効の抗弁をいずれも排斥して、差止請求を認容した。また、知財高裁平成30年12月27日判決(以下「第1審取判決」という。)も、サノフィによる、同特許の進歩性欠如、サポート要件違反及び実施可能要件違反を理由とする無効審判について、請求に理由がないとした無効不成立審決を支持していた。
しかし、米国では、対応する米国特許に基づく、特許権侵害訴訟について、連邦地裁も、連邦巡回控訴裁判所も、実施可能要件違反による特許の無効を理由に、アムジェンの請求を棄却しており、最高裁の判決が待たれていたところ、米国最高裁が2023年5月18日に判決を言い渡し、アムジェンの米国対応特許を実施可能要件に違反して無効であるとして、連邦巡回控訴裁判所の判断を肯定する旨の判決を言い渡した。
また、異例ではあるが、日本の知財高裁も、2023年1月17日の審決取消訴訟(原告はリジェネロン)の判決(以下「第2審取判決」という。)で、アムジェンの本件各特許をサポート要件違反であると判断して、無効不成立審決を取り消した。これによると、同じ特許の審決取消訴訟において、知財高裁で、サポート要件について、異なる判断が示されたことになるため、その理由が興味深いところである(なお、第2審取判決は、原告が異なるため、第1審取判決の既判力は働かない。)。
特許権侵害訴訟において、先端の医薬品特許のサポート要件違反及び実施可能要件違反をどのように判断すべきかについて、今回の侵害訴訟では、米国と日本で判断が異なり、かつ、知財高裁の第2審取判決では第1審取判決や控訴審判決とは異なる結論が導かれている。また、第2審取判決によれば、対応欧州特許については、進歩性欠如により無効との判断がされているようである。
まずは、第2審取判決の次の判示が、この紛争のグローバルな全体像を示しているので、引用する。
「ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断されており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持されている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能性が極めて高い旨主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与えるものではないことは明らかである。」
また、第2審取判決は、前の第1審取判決と結論が異なった理由について、次のように述べている。
「イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1のとおり、サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、31H4抗体と競合する抗体は、31H4抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し31H4抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるものと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や【B】博士の各供述書、【F】5教授の鑑定書等(甲18、230)による構造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。」
2 知財高裁判決の判決要旨の比較
(1)本件発明の概要と請求項
本件発明は、PCSK9阻害薬といわれるものである。肝細胞表面には血中からLDLコレステロールを肝細胞内に取り込むLDL受容体が存在するところ、LDL受容体はPCSK9と結合することにより複合体となり肝細胞内に取り込まれた後、肝細胞内で分解されてしまうため、LDL受容体数を減らすPCSK9を阻害する必要があり、PCSK9と結合するモノクローナル抗体が必要となる。
本件特許1の訂正後の請求項1は、「【請求項1】PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体。」である(以下、「配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」を「21B12抗体」といい、「参照抗体」ともいう。)。
そして、PCSK9とLDLRの結合を「中和」するとは、PCSK9とLDLRとの間の結合を妨げることを意味し、「抗体と競合する」とは、競合アッセイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合をいい、参照抗体がPCSK9に結合するエピトープと同一又は重複するエピトープに結合することや、参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となる隣接エピトープに結合することを意味するものである(控訴審判決参照)。
次に、サポート要件に絞って、第1審取判決、控訴審判決と第2審取判決の判示を比較対照し、その後3で、米国最高裁判決の実施可能要件違反の判示を紹介する。
(2)第1審取判決
第1審取判決は、「本件明細書に接した当業者は、本件明細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイを最初から繰り返し行うことによって、本件明細書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも、本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する様々な中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。以上によれば、本件訂正発明1(請求項1)は、サポート要件に適合するものと認められる。」と判断した。
(3)控訴審判決
控訴審判決は、機能的クレームによる限定解釈の主張に対しては、サポート要件又は実施可能要件の問題として判断されるべきであるとして、限定解釈はしなかった。同判決は、サポート要件違反について、「本件各発明は、PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し、参照抗体1又は2と競合する、単離されたモノクローナル抗体及びこれを使用した医薬組成物を提供するものであり」としたうえで、①「本件各明細書には、本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用してハイブリドーマを作製し、スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され、そのうちの合計39抗体について、エピトープビニングを行い、21B12と競合するが、31H4と競合せず、中和抗体であるものが15個、31H4と競合するが、21B12と競合せず、中和抗体であるものが7個、確認されたことが開示されている。また、本件各明細書には、21B12と31H4は、PCSK9とLDLRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。」と判示し、本件特許1について、15個の抗体、本件特許2について7個の抗体の開示があることを評価した。また、同判決は、②「本件各明細書には、免疫プログラムの手順やスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法等が記載され、当業者は、これらの記載に基づき、一連の手順を最初から繰り返し行うことによって、本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも、参照抗体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認められる。」(以下「本件手順説明」という。)とも説示して、サポート要件違反はない、と判断した。また、控訴審判決は、本件各発明の抗体を作成し、使用することができると判示して、実施可能要件に適合すると判断した。これらの抗体に関する控訴審判決の説示や、本件手順説明に関する説示は、後記3の米国最高裁判決の判示と実質的に異なる判示であり、サポート要件ないし実施可能要件についての結論が異なった理由といえる。
(4)第2審取判決
これに対し、第2審取判決は、「本件発明における「中和」とは、タンパク質結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものである」と判断し、そのうえで、「本件明細書には、21B12抗体と競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記載される抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載はなされていない」、「本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」との性質を有する抗体には、本件明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含されることは自明であり、また、このような抗体には、21B12抗体がPCSK9と結合するPCSK9上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK9との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で参照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例えば、21B12抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、21B12抗体に軽微な立体的障害をもたらして、21B12抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含まれ得る」(第1の理由)、
「本件明細書の発明の詳細な説明には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDLRタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体が結合中和活性を有することについて何らの開示がないというほかなく、この点からも、本件発明はサポート要件を満たさない」(第2の理由)、と判断した。
3 米国最高裁判決
米国最高裁は、本件各特許に対応する米国特許について、実施可能要件違反と認定判断した。
同判決の理由を詳細に説明することは紙面の都合上困難であるが、筆者の印象に残ったところを抽出すると、以下のとおりである。
「In these claims, Amgen did not seek protection for any particular antibody described by amino acid sequence. Instead, Amgen purported to claim for itself “the entire genus” of antibodies that (1) “bind to specific amino acid residues on PCSK9,” and (2) “block PCSK9 from binding to LDL receptors. As part of its submission to the patent office, Amgen identified the amino acid sequences of 26 antibodies that perform these two functions, and it depicted the three-dimensional structures of two of these 26 antibodies.”」
(「これらのクレームにおいて、Amgenはアミノ酸配列によって記載された特定の抗体の保護を求めなかった。その代わりに、Amgenは、(1)「PCSK9上の特定のアミノ酸残基に結合する」抗体、および(2)「PCSK9がLDL受容体に結合するのを阻止する」抗体の「全ての属(genus)」をクレームすると主張した。Amgenは特許庁への提出書類の一部として、これら2つの機能を果たす26の抗体のアミノ酸配列を特定し、これら26の抗体のうち2つの抗体の三次元構造を示した。」)
「Amgen only offered scientists two methods to make other antibodies that perform the binding and blocking functions it described. The first method is what Amgen calls the “roadmap.” At a high level, the roadmap directs scientists to: (1) generate a range of antibodies in the lab; (2) test those antibodies to determine whether any bind to PCSK9; (3) test those antibodies that bind to PCSK9 to determine whether any bind to the sweet spot as described in the claims; and (4) test those antibodies that bind to the sweet spot as described in the claims to determine whether any block PCSK9 from binding to LDL receptors. The second method is what Amgen calls “conservative substitution.” This technique requires scientists to: (1) start with an antibody known to perform the described functions; (2) replace select amino acids in the antibody with other amino acids known to have similar properties; and (3) test the resulting antibody to see if it also performs the described functions.」
(「Amgenは、同社が記載した結合機能および遮断機能を果たす他の抗体を産生するための2つの方法のみを研究者に対して提供した。第1の方法は、Amgen社が「ロードマップ」と呼ぶものである。ロードマップレベルでは、ロードマップは研究者に次のように指示している;(1)研究室で様々な抗体を作製すること;(2)それらの抗体を試験してPCSK9に結合するかどうかを決定すること;(3)PCSK9に結合する抗体を試験して、クレームに記載されているようなスイートスポットに結合するかどうかを決定すること;および(4)PCSK9がLDL受容体に結合するのをブロックするかどうかを決定するためにクレームに記載されているようなスイートスポットに結合する抗体かの試験をすること。第2の方法は、アムジェンが「保守的置換」と呼ぶものである。この技術は、研究者に次のことを要求する;(1)記載された機能を実行することが知られている抗体で開始すること;(2)抗体中の選択されたアミノ酸を、同様の特性を有することが知られている他のアミノ酸で置換すること;および(3)得られた抗体が記載された機能も実行するかどうかを試験すること。」)
「The Federal Circuit affirmed. It determined that “no reasonable factfinder could conclude” that Amgen had provided “adequate guidance” to make and use the claimed antibodies “beyond the narrow scope of the [26] working examples” it had identified by their amino acid sequences.」
(「連邦巡回控訴裁判所は(地裁の判断を)是認した。それは、アムジェンが「アミノ酸配列によって特定した[26]の実施例の狭い範囲を超えて」クレームされた抗体を製造し使用するための「適切なガイダンス」を提供したと「結論づけることができる合理的な事実認定者はいない」と決定した。」)
「Amgen seeks to monopolize an entire class of things defined by their function. every antibody that both binds to particular areas of the sweet spot of PCSK9 and blocks PCSK9 from binding to LDL receptors. The record reflects that this class of antibodies does not include just the 26 that Amgen has described by their amino acid sequences, but a “vast” number of additional antibodies that it has not.」
(「Amgenは、その機能によって定義されるすべてのクラスのもの、すなわち、PCSK9のスイートスポットの特定領域に結合し、PCSK9がLDL受容体に結合するのを阻止する全ての抗体を独占しようとしている。記録によれば、このクラスの抗体にはAmgenがアミノ酸配列によって記載した26個だけではなく、「膨大な」数の追加の抗体が含まれることを示している。」)
「It freely admits that it seeks to claim for itself an entire universe of antibodies. Still, it says, its broad claims are enabled because scientists can make and use every undisclosed but functional antibody if they simply follow the company’s “roadmap” or its proposal for “conservative substitution.” We cannot agree.」
(「同社は、抗体の広い宇宙をすべてクレームしようとしていることを認めている。しかも、同社は、研究者が、その「ロードマップ」や「保守的置換」の提案に従うだけで、機能性を除いて公開されていないすべての抗体を製造して使用できるため、広いクレームが実施可能であると主張している。我々は同意できない。」)
「These two approaches amount to little more than two research assignments. The first merely describes step-by-step Amgen’s own trial-and-error method for finding functional antibodies-calling on scientists to create a wide range of candidate antibodies and then screen each to see which happen to bind to PCSK9 in the right place and block it from binding to LDL receptors. The second isn’t much different. It requires scientists to make substitutions to the amino acid sequences of antibodies known to work and then test the resulting antibodies to see if they do too—an uncertain prospect given the state of the art.」
(「これら二つのアプローチは、二つの研究課題以上のものではない。一つ目は、機能性抗体を発見するためのAmgen自身の試行錯誤的方法を段階的に説明したものであり、研究者らに広範囲の候補抗体を作成し、それぞれの抗体をスクリーニングして、PCSK9に適切な位置で結合し、LDL受容体への結合を阻害するものを確認するよう求めている。二つ目はこれとあまり変わらない。これは、研究者に対し、作用することが既に知られている抗体のアミノ酸配列を置換し、得られた抗体を検査するというものであり、それが技術水準を考えるとあまりにも不確実な見通しであることを要求するものである。」)
「Section 112 of the Patent Act reflects Congress’s judgment that if an inventor claims a lot, but enables only a little, the public does not receive its benefit of the bargain. …The judgment is Affirmed」
(「特許法第112条は、発明者が広いクレームを請求しても、軽微な範囲でしか実施できない場合、公衆はその取引の利益を享受することはないという議会の判断を反映している。…原審の判断を是認する。」)
4 サポート要件、実施可能要件の判断が異なった実質的理由について
各判決において、サポート要件、実施可能要件違反の判断が異なった実質的な理由は次の二つであると解される。
第1は、控訴審判決は、15+7の抗体が実施例として開示されていることを評価したのに対し、第2審取判決及び米国最高裁判決は、本件特許のクレームが、開示された26の抗体以外の膨大な数の抗体も含む広すぎるクレームであると判断した。第2に、控訴審判決及び第1審取判決は、本件手順説明があることにより、当業者はこれらの記載により本件発明の抗体を作成することができると評価したのに対し、米国最高裁判決は、本件手順説明は、単なるロードマップないし保守的置換であり、単なる研究課題の提示以上のものではないと判断した。これらの二つの判断の差異が、サポート要件と実施可能要件という二つの要件について、反対の結論に至った実質的な理由であると解される。米国最高裁判決の判断は明快である。筆者は、この二つの実質的理由に鑑みると、米国最高裁判決及び第2審取判決の結論に賛成である。
また、控訴審判決は、本件のような機能的クレームの解釈について、サポート要件ないし実施可能要件の問題であるとして限定解釈をしなかった。無効の抗弁が導入されて以来、クレーム解釈については、公知技術による限定解釈をせずに、無効の抗弁(進歩性の欠如)の問題として判断すれば足りるとの考え方が実務では有力であり、このことが、このような判断につながったと解される。
しかし、本件各特許について、米国では、地裁、高裁、最高裁といずれも実施可能要件違反とされ、日本では、第1審取判決、控訴審判決では、サポート要件違反及び実施可能要件違反はないと判断され、第2審取判決で、ようやくサポート要件違反と判断されたことは、このような先端医薬特許の同各要件の判断の困難性を端的に示すものである。
このような先端の医薬発明のサポート要件及び実施可能要件の判断の困難さ及びサポート要件の判断基準が明確ではないこと、本件特許のような先端医薬特許で機能的に記載される特許発明については、開示された技術思想の範囲内で限定的にクレーム解釈をしていくことは、紛争解決の妥当性を追求する上で、重要であると解される。
知財高判令和元年10月3日判決は、「凝血促進活性を増大させる、抗体または抗体誘導体」との請求項の記載について、「特許請求の範囲が上記のように抽象的、機能的な表現で記載されている場合においては、その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず、上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。」と判断しており、この種事案の判断の参考になると解される。