トピックス

法律トピックス 特許

医薬用途発明

1.用途発明とは

「用途発明」は、「ある物の未知の属性を発見し、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明」等と定義されます(特許・実用新案審査基準)。「医薬用途発明」の場合、「新たな用途」とは、特定の疾病への適用と、用法又は用量が特定された特定の疾病への適用を意味するとされています(特許・実用新案審査ハンドブック)。

 

2.用途特許の侵害の成否-ラベル論

用途発明は、ラベル論で侵害、非侵害が決まると考えられています。ラベル論とは、特許発明の用途を表示するラベル等を製品に付して製造販売等する行為は、用途発明に係る特許権の侵害になるが、特許発明の用途を表示するラベル等を製品に付すことなく製造販売等する行為は、用途発明に係る特許権の侵害にはならないという考え方です。

 

3.医薬用途発明の実施

医薬品は添付文書が付されて販売され、またインタビューフォームも作成されますので、医薬品の用途の認定には、添付文書やインタビューフォームに記載された「効能又は効果」、「用法及び用量」等の記載が重要な役割を果たします。

しかし、次の判決のように、医薬用途発明の実施の有無は、添付文書やインタビューフォームに明記されている事項だけでなく、他の証拠も参酌して認定されます。

知財高判平成18年11月21日(シロスダゾール事件;職務発明に関する補償金請求事件)では、「医薬品の用途発明の実施は,例えば医薬品の容器やラベル等にその用途を直接かつ明示的に表示して製造,販売する場合などが典型的であるといえるが,必ずしも当該用途を直接かつ明示的に表示して販売していなくても,具体的な状況の下で,その用途に使用されるものとして販売されていることが認定できれば,用途発明の実施があったといえることに変わりはない。」と判示されました。そして、この事件においては、特許発明の用途が対象製品の添付文書に効能・効果として記載されていなかったものの、標準的な診療情報を医師等に提供する治療ガイドラインにおいて、対象製品が特許発明の用途の薬剤として記載されるほどに認知されていたという状況下で、営業担当者が、対象製品の特性の一つとして当該用途を積極的にアピールして販売促進していたこと、及び、当該用途を示唆する記載が添付文書に追加されたことから、対象製品の販売の中には、特許発明の用途に使用されるものとして販売されたものが一定量含まれると認定されました。

 

知財高判平成28年7月28日(メニエール病治療薬事件)では、用法・用量に特徴のある医薬用途発明に係る特許権の侵害の成否が争われました。本件発明は、作用発現までに長時間要するという従来のメニエール病治療薬の課題を解決するために、既知の物質であるイソソルビトールの1日当たりの用量を従来の「1.05~1.4g/kg体重」から、構成要件Aにいう「0.15~0.75g/kg体重」に減少させることで、迅速な作用を発現させるとともに、長期投与に適したメニエール病治療薬を提供するという発明でした。判決は、「用途発明における・・・『実施』とは,新規な用途に使用するために既知の物質を生産,使用,譲渡等をする行為に限られる」という一般論を示し、被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法・用量は,「構成要件Aによって規定された用途を明らかに超える」もので、被告は、新規な用途に使用するためにイソソルビトールを含む被告製品を製造販売したものということはできないと結論しました。この事件では、対象製品の添付文書等の用法・用量として「症状により適宜増減する」と記載されており、控訴人(一審原告)は、被告製品の漸減の結果投与量が特許発明に規定された範囲に至った場合には構成要件を充足する旨の主張をしていましたが、認められませんでした。

本件発明が、用量を従来技術よりも減少させることにより新たな効果を奏することをもって、新たな用途発明として特許になったという事情を踏まえれば、被告製品の添付文書等に記載された用法・用量自体従来技術に相当するものにすぎず、新たな用途に使用するために製造販売されたものとはいえないため、「症状により適宜増減」した結果たまたま本件発明の用量の範囲に入る場合が生じるとしても、被告製品は本件特許権を侵害しないとすることは合理的であると思われます。

 

4.差止の範囲

東京地判平成4年10月23日(フマル酸ケトチフェン事件)は、被告製剤品が本件発明にいう「アレルギー性喘息の予防剤」に該当すると認定した上で、「アレルギー性喘息の予防剤」以外の用途をも差し止める結果になることについて、「仮に被告らの製剤品にアレルギー性喘息の予防剤以外の用途があるとしても、被告らは、被告らの製剤品について、アレルギー性喘息の予防剤としての用途を除外する等しておらず、右予防剤としての用途と他用途とを明確に区別して製造販売していないのであるから、被告らが、その製剤品についてアレルギー性喘息の予防剤以外の用途をも差し止められる結果となったとしてもやむをえないものといわざるをえない。」と判示しました。

一方、メニエール病治療薬事件の「用途発明における『実施』とは,新規な用途に使用するために既知の物質を生産,使用,譲渡等をする行為に限られる」との考え方にしたがえば、特定の用途が新規な用途であると認められて特許された医薬用途特許に対し、仮に、被告製品が、その新規な用途に加え従来から公知の用途にも使用するために製造販売されたものである場合には、公知の用途も含めて差し止めることは、過剰差止となると考えられます。

 

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。