応用美術であるタコ形状滑り台の著作物性を判断した知財高裁判決(令和3年12月8日判決、令和3年(ネ)第10044号
1 応用美術
従来から応用美術の著作物性が議論されてきました。応用美術(applied arts)とは、一般に、工業製品の審美性を向上させるためのデザイン又は装飾に応用される作品を意味し、美的鑑賞をさせるだけの目的で創作された作品である純粋美術(fine arts)と対極する概念です。工業製品の機能的に不可欠な構成に著作権が発生すると、産業を阻害することになります。そのため、応用美術の著作権を認めてよいのかが問題になります。
ベルヌ条約では、応用美術の作品、工業デザイン及び工業模型(works of applies art, and industrial designs and models)を法律上保護する条件は、加盟国各国の裁量に委ねられています。日本の著作権法では応用美術の取り扱いは規定されていません。ただし、著作権法2条2項は、美術工芸品(手作業で一品制作される芸術的な製品)は美術の著作物(著作権法10条1項4号)に含まれると規定しています。
2 著作物性の基準
裁判例は、基本的に、平成26年8月28日知財高裁判決(ファッションショー事件)で示された基準、すなわち応用美術のうち実用的な機能とは分離して把握できる美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えているもののみが美術の著作物になり得える、という分離可能性説の基準を採用しています。
3 当該知財高裁判決の判断
本判決は、上記の分離可能説の基準を採用した上、分離可能要素(実用的な機能とは分離して把握できる美的鑑賞の対象となり得る美的特性)に創作性がある場合には、分離可能要素を含む作品全体が美術の著作物として保護される旨判断しました。
この判断基準に基づき、本判決は、下記写真に示される原告滑り台のうち天蓋(タコの頭の上部)のみが分離可能要素であり、他の部分は滑り台の機能(スライド、利用者の落下防止)に不可欠な構造であると判断しました。そして、本判決は、分離可能要素と認めた天蓋について、ありふれた形状であるから創作性がないと判断しました。そのため、本判決は、原告滑り台には美術の著作物としての著作物性がないと判断しました。
【原告滑り台】
【被告滑り台】
(引用元: 本判決)
4 考察
今後も、裁判所は上記の分離可能説の基準を採用していくと思われます。しかしながら、分離可能性説の基準が裁判実務に定着したとしても、依然として応用美術の著作物性の判断は容易ではありません。実用的な機能に不可欠な構成の捉え方次第で、分離可能要素の範囲は変わります。本件においては、滑り台の実用的な機能に不可欠な構成は、一つのスライド台、当該スライド台を支持する部材、当該スライド台の頂点に登るための階段又は梯子、及び落下防止側壁のみと理解した場合には、原告滑り台のうち、天蓋(タコの頭の上部)に加えて、左右のねじれたスライド台とそれらを支持する大きな貫通孔を備えた構造物も、分離可能要素とし、創作性判断の対象とすることができます。
5 建築物
本判決及び一審判決は、建造物の実用性に鑑み、建築の著作物にも応用美術についての分離可能説の基準が妥当する旨述べました。
以上