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商品の表示・広告と知的財産権

1.商標権と商品表示

商標法73条は、指定商品(その包装を含む)に登録商標を付するときや、指定役務の提供の用に供する物に登録商標を付するときには、その商標が登録商標である旨の表示をすることを商標権者の努力義務として定めている。法文上はあくまでも努力義務であるが、当該商標が登録を経たものであることを表示していれば類似する商品についてこれを使用すると商標権侵害の問題を生じることが明らかになるから、登録商標を無断で他者に使用されることを未然に防ぐために®マークや登録番号等を用いた表示が一般的に行われている。

また、登録商標でない商標について登録されているかのような虚偽の表示を行う行為については、同74条がこれを禁じ、同条に違反した場合には刑事罰の対象となり得る(同80条)。


商標法 第74条

一 登録商標以外の商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為

二 指定商品又は指定役務以外の商品又は役務について登録商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為

(以下省略)


ある商標について自社が取り扱う商品の一部のみを指定商品として登録している場合、指定商品に含まれない商品やその包装に当該商標を表示すること自体は問題ないものの、当該商標が登録商標である旨の表示を行うと上記2号の定めに違反することになるため、注意が必要である。

2.特許権と商品表示

(1)特許法上の定め

特許法においても、商標法と同様、物の特許発明におけるその物若しくは物を生産する方法の特許発明におけるその方法により生産した物(以下「特許に係る物」という。)又はその物の包装にその物又は方法の発明が特許に係る旨の表示をすることが187条に努力義務として定められており、「経済産業省令で定めるところにより」とする同条の規定を受けて特許法施行規則68条には、物の特許発明については「特許」の文字+特許番号、方法の特許発明については「方法特許」の文字+特許番号とするとの定めがある。

187条はあくまで努力義務を定める規定であるから、特許表示をする場合に必ずしも省令の定めに従った形式で行わなければならないわけではない。もっとも、虚偽の表示を行う行為については、これを禁止する定めが188条に置かれている。


特許法 第188条

何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

一 特許に係る物以外の物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為

二 特許に係る物以外の物であって、その物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付したものの譲渡等又は譲渡等のための展示をする行為

三 特許に係る物以外の物の生産若しくは使用をさせるため、又は譲渡等をするため、広告にその物の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為

四 方法の特許発明におけるその方法以外の方法を使用させるため、又は譲渡し若しくは貸し渡すため、広告にその方法の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為


本条に違反した場合には刑事罰の対象となり得ることも、商標法の場合と同様である(特許法198条)。特許権については、商標権の場合と異なり権利者が権利の存続期間を更新することができないため、特許権の存続期間満了後に実施品の販売を継続する場合には、特許表示または当該商品に係る特許権が有効に存続していることをうかがわせるような表示を削除しなければならない点に留意する必要がある。また、特許は有するものの特許番号が誤っていた場合には、「特許に係る物」に特許表示をしていることには変わりないので、虚偽表示には当たらないと考えられている。他方、特許を有していない商品について単に「特許」等とのみ表示した場合には、特許表示と紛らわしい表示をしたものとして本条の虚偽表示にあたるとされる。

(2)景品表示法及び不正競争法の定め

景品表示法には、消費者に誤認される不当な表示を禁じる定めが置かれている。そのうち、特許権との関係で主に問題となり得るのは、商品・サービスの品質、規格その他の内容についての不当表示(優良誤認表示・景表法5条1号)である。景表法に違反するかどうかの判断にあたっては、事業者が行った表示について、その全体から消費者が受ける認識・印象を基準としてその内容を確定するとされている。例えば、「特許出願中」と記載した場合や、商品そのものに係る特許ではなく関連する特許の番号を記載したという場合には、記載した事実そのものが虚偽でなくとも、表示を全体として見ると事実よりも著しく優良であるという印象を与えるということがないようにすべきである。

上述した特許法・商標法ないし景品表示法の規定に違反した場合には、刑事罰又は行政指導等の対象にはなりうるものの、競合他社等に直接差止請求権が認められるわけではない。これに対して、虚偽の表示が不正競争防止法に定める不正競争行為にあたると考えられる場合には、その行為によって競争上の不利益を被る恐れのある者から差止請求をすることが可能である(不正競争防止法3条1項)。

(3)医薬品等の取り扱い

薬機法66条は、医薬品等の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、虚偽又は誇大な記事を広告することを禁じる。医薬品等の広告に関する実際の監視指導は厚生労働省が示す「医薬品等適正広告基準」[1](以下、「広告基準」という。)に従って行われており、同基準には虚偽や誇大な広告を禁じる薬機法の規定の解釈のみでなく、医薬品等の広告の適正を図る目的で遵守すべき事項も示されている。広告基準の「解説及び留意事項等についての通知」[2]によると、同基準第4の10「医療関係者等の推薦」に関して、「特許に関する表現は、事実であっても本項に抵触し、事実でない場合は虚偽広告として取扱う。」とされており、医薬品等の広告中で特許に関する記載を行うと、たとえ事実であっても広告基準に違反することになる。他方、上記の記載に続いて、「なお、特許に関する権利の侵害防止等特殊の目的で行う広告は、医薬品の広告と明確に分離して行うこと。」との記載があり、そこで参照される「特許の表示について」[3]との通知では、医薬品等の「容器若しくは被包又はこれらに添附する文書等に「特許」等の文字を記載することは、「方法特許」又は「製法特許」の文字及び特許番号並びに特許発明にかかる事項を併記して正確に表示する場合」であれば差し支えないとされている。医薬品等について特許表示を行う場合には、宣伝広告部分と表示部分を明確に分離した上で、上記の通知の内容に従った態様で表示するよう留意する必要があろう。

[1] 平成29年9月29日薬生発0929第4号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知

[2] 平成29年9月29日薬生監麻発0929第5号厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知

[3] 昭和39年10月30日薬監第309号厚生省薬務局監視課長通知