法律上の「営業秘密」概念について
1 「営業秘密」該当性を検討する意味
営業秘密は企業にとって他社との差別化をもたらす根源であり、利益を生み出す重要な財産です。したがって、これらの営業秘密は無用に公開、開示されることなく秘密として維持される必要があります。しかし、営業秘密を不正に開示される場合や、訴訟等でやむをえず相手方に開示しなければならない場合もあり得ます。そういった場合に、営業秘密の開示を処罰したり、「営業秘密」ないし「秘密」を保護したりする法律上の規定が複数存在しています。例を挙げると、次のような条項があります。
・不正競争防止法2条1項4号~10号、同条6項、同法21条(営業秘密保護関係・罰則規定)
・民事訴訟法92条(秘密保護のための閲覧等の制限)
・特許法105条の4、200条の3(秘密保持命令・罰則規定)
こうした法律による保護を受けるためには、自社の有する情報が、法律上の要件である「営業秘密」ないし「秘密」に該当する必要があります。そこで、その情報が本当にこれらの法律上の要件に当たるかどうかを検討する必要性が生じます。
2 営業秘密とは
様々な法律で「営業秘密」ないし「秘密」の該当性が問題になりますが、これらの要件への該当性を検討する際にまず参照されるのが、不正競争防止法2条6項に規定される「営業秘密」の定義です。前述の特許法105条の4なども、不正競争防止法2条6項の定義を用いて「営業秘密」を特定しています。同項には、次のように規定されています。
「第6項 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」
この条項から、営業秘密に該当するか否かは、次の3点から検討すべきことが分かります(以降の説明は経済産業省HP「逐条解説 不正競争防止法〔令和元年7月1日施行版〕」を参考にしています。)。
① 秘密として管理されていること(秘密管理性)
② 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
③ 公然と知られていないこと(非公知性)
(以上、 「逐条解説 不正競争防止法〔令和元年7月1日施行版〕」 43頁)
上記のうち②については相当広く認定される傾向にありますので、争いが生じるとすれば①と③が多いと考えられます。
(1) ①について
秘密管理性は、当該情報を有する者が主観的に秘密であると考えているだけでは足りないとされています。この要件を満たすためには、当該情報を有する者がその情報を秘密であるとして扱う意思(「秘密管理意思」と呼ばれます。)が具体的な措置によって明確に表示されており、その表示を認識した者が、秘密として扱われていると認識できる程度であることが必要と考えられています。
(2) ③について
非公知性が認められる情報とは、一般的に知られていない情報か、容易に知ることが出来ない情報であるとされています。
営業秘密該当性における非公知性は、特許登録要件としての新規性(特許法29条)よりも広く解されており、守秘義務がない者が秘密を知ったとしても、その者がその秘密を維持していれば、非公知にあたると判断される余地があります。
3 営業秘密の保護の具体的方策について
①について、秘密管理意思の表示としてよく参考例に挙げられる方法として「厳秘」や㊙マークを当該情報に付す方法(紙媒体であればスタンプや印字、電子データであれば保存媒体に物理的に記載する方法や、データ展開時に表示されるようにするなどの方法)があります。
③について、第三者に情報を開示しつつ非公知性を確保するためには、やはり秘密保持契約(NDA)が重要となります。企業間で共同して製品開発を行う場合などには、業務提携に至るか否かの検討期間においてもある程度の情報を開示しなければならないことがあるため、これらの検討に先立ち、まずは秘密保持契約を締結しておくという運用が望ましいと考えられます。
その他、営業秘密として管理する具体的な態様について、経済産業省が「営業秘密管理指針」(経済産業省HP)を定めており、これを参照することが考えられます。
4 参考文献
経済産業省「営業秘密管理指針」(経済産業省HP)
経済産業省知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版)」(経済産業省HP)
経済産業省知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法〔第2版〕」(商事法務、2019年)
※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。