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パラメータ発明について先使用を認めた事例(知財高判令和6年4月25日・令和3年(ネ)第10086号【ランプ及び照明装置事件】)②

パラメータ発明について先使用を認めた事例(知財高判令和6年4月25日・令和3年(ネ)第10086号【ランプ及び照明装置事件】)①から続く

4 検討

(1)数値限定発明、パラメータ発明と先使用

ア 問題の所在

数値限定発明やパラメータ発明においては、特許発明に係る数値限定やパラメータを、特許出願前の実施者が認識していないことも多い(特に当該特許発明特有の特殊パラメータ)。

イ 「技術的思想」の同一性?

(ア)特許法79条の「その発明」とは、その文理解釈上、及び、ウォーキングビーム事件最判の判示に照らし、特許発明と同一の発明である必要があると解するのが多数説とされている。

 

参考:知財高判令和2年9月30日・令和2年(ネ)第10004号【光照射装置】(原判決・大阪地方裁判所令和元年12月16日・平成29年(ワ)第7532号を一部修正の上引用)

『先使用権が認められる者は,「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし,…特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者」とされているところ,「その発明」とは,いずれも「特許出願に係る発明」を指すと解するのが自然な文理解釈である。

また,上記のとおり,先使用権が特許発明の通常実施権であることに鑑みると,先使用権に係る発明は,特許発明と同一のもの又は少なくともその一部であるものをいうと解される。

したがって,先使用権が成立するためには,先使用に係る発明が特許発明の(※原文ママ)同一の発明である必要があると解される。』

 

ここで、「発明が同一である」とは何を意味するのかであるが、実務上は、少なくとも、先使用に係る実施形式の構成が特許発明の技術的範囲に属する必要があると理解されている(前掲光照射装置事件など参照)。

他方、近時、先使用の成立要件として発明の同一性は不要とする、あるいは、先使用に係る実施形式がクレーム範囲内にあることを要求しない(いわゆる「食い込み」を認める)見解も学説上有力に唱えられている。

(イ)ピタバスタチン事件(知財高判30年4月4日・平成29年(ネ)第10090号)

同判決では、水分含量に係る構成要件を含む医薬品に係る発明について、先使用の成否が問題となっていたが、以下のように判示されている。

『特許法79条にいう「発明の実施である事業…の準備をしている者」とは,少なくとも,特許出願に係る発明の内容を知らないで自らこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者でなければならない(最高裁昭和61年(オ)第454号・同年10月3日第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。よって,控訴人が先使用権を有するといえるためには,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明でなければならない。』

『サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるといえるためには,まず,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にある必要がある・・。

控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた本件2mg錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量は,いずれも本件発明2の範囲内(1.5~2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。』

仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない。

・・控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5~2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることはできない。

・・本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものであるのに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存在しない

そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない。』

同判決は、単に先使用発明に係る実施形式が特許発明の構成要件を充足するのみならず、技術的思想としても特許発明と同一であることを先使用成立の要件としている。

また、同判決の読み方をめぐっては、一部において、先使用者において数値についての主観的な認識が必要であるとの理解も唱えられているものの、同判決の裁判長であった髙部眞規子元判事(現弁護士)によれば、同判決は認識を要求するものではなく、発明が開示する事項が一定に管理されていればよいという(髙部眞規子「判例からみた先使用」別冊パテント第30号13頁)。

いずれにせよ、パラメータ発明については、出願時に当該パラメータについて認識(あるいは管理)がなされていることは稀であり、「技術的思想の同一性」を要求されると、事実上先使用の主張が困難となる場合がある。

ウ 先使用権の効力が及ぶ範囲

(ア)ウォーキングビーム事件最判

『「実施又は準備をしている発明の範囲」とは、特許発明の特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に日本国内において実施又は準備をしていた実施形式に限定されるものではなく、その実施形式に具現されている技術的思想すなわち発明の範囲をいうものであり、したがつて、先使用権の効力は、特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく、これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶものと解するのが相当である。』

(イ)数値限定発明、パラメータ発明については、前述のとおり、出願時に当該数値、パラメータが認識されていないことも多く、その場合、出願前の実施形式(数値)からどの程度変更した範囲まで先使用権の効力が及ぶのかが問題となり得る。

(2)本判決の意義

ア 技術的思想の同一性を要求していないこと

本判決は、まず、①403W製品(優先日前の実施形式)が特許発明の構成要件を充足するかどうかにより先使用権の成否を判断し、その次に、②先使用権がいかなる(数値)範囲にまで及ぶかを判断するという判断枠組みをとっている。また、②についての判示中であるが、「被控訴人が本件パラメータを認識していなかったことをもって、先使用権の成立を否定すべきではない」とし、さらに、「x値及びy値の関係性を特定する技術的思想が明示的ないし具体的にうかがわれるものではない」としながらも先使用権を認めている。

上記の判断枠組み、判示内容からすると、本判決は、少なくとも、先使用権の成立要件として、「技術的思想の同一性」は要件とはしていないものと考えられる。

イ 先使用権の効力が及ぶ範囲

(ア)判断枠組み

本判決は、ウォーキングビーム事件最判の理由付け部分で述べられていた『先使用権者が自己のものとして支配していた発明の範囲』を、先使用権が及ぶ範囲の外延とし、また、実施形式において具現された発明を認定するに当たっては、当該発明の具体的な技術内容だけでなく、当該発明に至った具体的な経過等を踏まえつつ、当該技術分野における本件特許発明の特許出願当時(優先権主張日当時)の技術水準や技術常識が考慮要素となるとし、結論としてクレームの全数値範囲において先使用権の効力が及ぶことを認めている。

(イ)パラメータの認識

また、本判決は、本件の技術状況(粒々感の抑制は公知の課題であり、当業者は本件パラメータによらず各々当該課題を解決していた)からすると、本件パラメータを認識していなかったことをもって、先使用権の成立を否定すべきではないとしており、この点も注目に値する。

(3)訂正と先使用との関係

ア 上述のとおり、通説によれば、先使用に係る実施形式は少なくとも特許発明の技術的範囲に属する必要があるが、クレームが訂正された場合には、訂正後のクレームに基づいて判断されることになる(補正についても同じ)。

前掲・光照射装置事件判決は、訂正審決が確定していた事案であるが、以下のように述べる(原判決を訂正の上引用)。

『本件訂正審決の確定により,本件特許については,本件再訂正後における特許請求の範囲により特許出願,特許権の設定登録等がされたものとみなされるから(特許法128条),本件における「特許出願に係る発明」及び「特許出願に係る特許権」に係る特許請求の範囲の記載は,本件再訂正後の請求項1及び3となる。そうすると,仮に・・の構成がいずれも本件訂正発明の技術的範囲に属していたとしても,そのことは,上記(2)の結論を左右しない。また,このように解したとしても,訂正の結果,特許権者は訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく特許発明の技術的範囲の限度で権利が認められるにとどまることを考えると,特許権者と先行して特許発明を実施していた者との公平を図るという先使用権の制度趣旨に反するものとはいえない。』

ただし、近時の学説においては、前述した「発明の同一性」の要否や「食い込み」の肯否との関係で、議論のあるところである。

イ 訂正が確定していない場合の扱い

本判決は、本件訂正発明1についても先使用の成否を検討しているが、本件においては、無効審判事件係属中のため、本件訂正1については確定していない。

したがって、請求原因においては、あくまで訂正前のクレームを基準とすることになり、訂正後のクレームは、被告の抗弁に対する訂正の再抗弁として登場することになる。

そうすると、本判決は、先使用の抗弁に対する「訂正の再抗弁」を(一般論としては)許容しているようにも読める。ただし、再訂正の主張との関係では「本件再訂正のうち先使用による通常実施権の主張を回避しようとするところは、特許発明の無効理由を解消しようとするものではないことに加え」とも判示している。

本判決は、結論として訂正後クレームについても先使用の成立を肯定したため問題は顕在化していないが、訂正が確定していない場合の先使用権の扱いについて、今後、学説等での議論が期待される。

また、本件再訂正発明1-17は、403W製品のx値、y値をピンポイントで除外するいわゆる「除くクレーム」である。403W製品の構成が除かれているのであるから、先使用品の実施形式がクレームを充足しておらず、先使用権は不成立という結論になるとも思われるが、本判決は、「先使用による通常実施権が認められる403W製品に係るy/x値の同一の範囲は1.1~1.7又は1.7を超える範囲であると認められる」として、先使用権の成立を認めており、この点についても今後の議論を期待したい。

以上

 

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