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訂正審判請求・訂正請求をする場合のライセンシー(通常実施権者)の承諾について(令和3年特許法改正)

1 はじめに

これまで、創英法律部門では、創英国際特許法律事務所の総合サイトや月刊創英VOICE(ペーパレス化により、終刊)、季刊創英VOICE等の媒体で、執筆活動を行っていました。月刊創英VOICEの終刊に伴い、創英法律部門で執筆する媒体が減っておりましたが、2021年8月に創英法律部門のホームページを開設したことに伴い、皆様のお役に立つ情報をお届けするために、新たに、創英法律部門のホームページのトピックスにて、情報発信を行っていくことにしました。

初回のトピックスのテーマについて、以前も扱ったこともある損害論や公然実施について執筆することも候補に挙がりましたが、以前、私が月刊創英VOICE及び総合サイトで取り上げた訂正審判請求・訂正請求をする場合のライセンシー(通常実施権者)の承諾について、今年(令和3年)特許法改正がなされたので、以前の古い情報を適時にアップデートすべく、まずはそれを紹介したいと考えました。損害論や公然実施等については、次回以降、執筆したいと思います。

2 改正前について

以前取り上げたトピックスでは、特許権について通常実施権の許諾をしている場合に、訂正審判請求や、訂正請求を行うときは、通常実施権の承諾を得る必要がある(127条、120条の5第9項(異議申立ての手続中における訂正請求)、143条の2第9項(無効審判の手続中における訂正請求))と説明しました。以前のトピックスは、リンク切れのため割愛させていただきます。(以下、敬体ではなく常体で記載します。)

3 改正の経緯

この点について、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会(産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp))において、「ライセンス態様の複雑化等に伴い、訂正審判等において全ての通常実施権者の承諾を得ることが、現実的には困難なケースが増加している。また、ライセンス契約後の関係悪化により通常実施権者の承諾が得られなくなるケースもあり、その場合、無効審判請求に対する訂正請求等ができなくなり、特許権者の防御手段が実質的に失われることも懸念される」との中間とりまとめがなされた(210208_with-covid19-report.pdf (jpo.go.jp)26頁参照)。

具体的に説明すると、前者については、標準規格に関連する特許権のクロスライセンスの増加や、AI・IoT技術の進展に伴うビジネス環境の変化などによる異業種間によるライセンスの増加、海外企業が通常実施権者となるケースの増加など、ライセンス契約の増加だけでなく、ライセンス態様の複雑化が進んでおり、単純な同業者の二者間での一特許のライセンスと比べ、通常実施権者の承諾を得ることが困難となることが大いに予想される。

後者については、訂正審判請求や訂正請求は、特許権者にとって、無効審判等での無効又は取消とされることを防ぐための有効な防御手段であるが、他方で通常実施権者にとっては、無効又は取消とされた方が、ライセンス料の支払いを免れるなど、承諾しないことによる利益が存在すると思われる。そこで、特許権者と通常実施権者の関係が悪化した場合、通常実施権者から承諾を得られないことが大いに予想される。

このような場合に通常実施権者が訂正審判請求又は訂正の請求を承諾しないことになると、特許権者の利益を大きく害することとなる。

そこで、令和3年の改正では、訂正審判請求又は訂正請求をする際は、通常実施権者からの承諾を不要としたのである。これにより、特許権者においては、上記のような懸念が払しょくされ、特許権の活用がこれまで以上に促進されることが期待される。

4 改正法の条文

改正前と改正後の条文は以下の通りである。

改正前の条文

(旧127条)

特許権者は、専用実施権者、質権者又は第三十五条第一項、第七十七条第四項若しくは第七十八条第一項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。

改正後の条文

(新127条)

特許権者は、専用実施権者又は質権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。

5 施行期日と経過措置

附則及び閣議決定された政令によれば、施行期日は、2022年4月1日であり(附則第1条本文、特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(「特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が閣議決定されました (METI/経済産業省))、施行日以降の訂正審判請求及び訂正請求について適用されることとなる(附則第2条9項)。つまり、施行日以前の訂正審判請求及び訂正請求については、なお従前の例によることとなり、通常実施権者の承諾が必要となる。

6 その他(無効審判の口頭審理のオンライン化)

今回の特許法改正で、特許無効審判等の口頭審理について、オンライン出頭が可能となった。この改正については、既に施行されている(施行日は、2021年10月1日))特許無効審判等の口頭審理でオンライン出頭が可能になります (METI/経済産業省)

参考文献

以上に掲げたもののほか、「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました (METI/経済産業省)

 

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。

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